グルメ

2018-02-20

これが浪江町の「白魚のお吸い物」

古くから浪江町で作り食べ継がれてきた郷土の味。その誕生秘話やおいしさの秘密を紹介する企画『ふるさと・浪江の味』。

第二回として紹介するのは『白魚のお吸い物』。海漁れの白魚とお豆腐、そしてネギがたっぷり入った一杯は、131日にまち・なみ・まるしぇで開催された『なみえ新春の集い』でも振る舞われ、用意した100食分はあっという間に終了。故郷の味が来場者の心と身体を温めました。

そんな、冬に欠かせない味について伺ったのは、相馬双葉漁業協同組合の網谷信行さんと玉野真喜さん。どちらも漁師の家に生まれ育った生粋の請戸っ子。「魚は買って食べたことがない」と胸を張るお二人から、今回ふるまったお吸い物の作り方を教わりながらお話いただきました。

磐城の海が育む春告げ魚

取り出されたのは、袋にたっぷり入った相馬沖で獲れた白魚。透き通った身を手に取ると、そのサイズに驚きです。

大都市のスーパーで刺身用として並ぶものは大体5センチ程度。こんな大きな白魚、見たことありません。

「これはイシカワシラウオという種類で、海採れのものなんです。請戸港だと12月から漁をしていました。食べて美味しいのは魚体が大きくなる12月にかけて。今日持ってきたのは大体6センチぐらいですが、花見の時期になると10センチぐらいになるんですよ」

10センチといえば、スマホのディスプレイほどのサイズ。そんなに大きくなるものなんですね…!では、浪江の皆さんはどういった料理で食べていたのでしょうか?

「今日ぐらいのサイズなら刺身や釜揚げ、茶碗蒸しに使ったり。揚げ物なら、かき揚げや唐揚げにする人もいますね。あと炊き込みご飯が美味しいんですよ。白魚が一番大きくなる雛祭りの頃には天ぷらにしていました」

正直、刺身で食べるイメージしかなかったのですが、「他の魚のように捌いたりせずに使えるので、手がかからなくて使い勝手がいい」ということもあって、冬から春にかけての食卓を彩るメインキャスト。白魚が大きくなるに連れて、請戸に春の訪れが近いことを教えてくれます。

ところで、もちろん白魚にもオスとメスがいるのですが、その見分け方が意外に簡単なのをご存知ですか?

「尾のほうが少し角ばっているのがオスで、全体にふっくら丸いのがメスなんです」

確かに、生で食べると味も微妙に違っていて、オスは青魚感が強くメスは甘さが強い印象。歯ざわりもオスは弾力に富んでいるのに対して、メスには少しふんわり感が。

そして、メスのお腹をちょっと押すと指に魚卵が!サイズは小さくてもプチプチ食感はしっかり。特にお刺身や釜揚げで食べる時に、磯の香りと甘さの存在感を放ちますが、「3月になると、しっかりと卵を食べてる感がする」ということで、天ぷらで食べる時にはもっと楽しめそうです。

しかも、何とオスを手に取るとビタッっとくっつくんです!「おそらく、後尾するときにメスと離れないようにする機能のようなものだと思う」というこの感覚、普段触る機会がないだけに、もう驚くしかありません(新鮮だと更にしっかりくっつくそうですよ!)。

浪江流・お吸い物の作り方

さて、色々な白魚料理が作り親しまれている浪江町の中で、特にこだわりが強いのが『お吸い物』。

「お吸い物は基本は塩味。色つけで醤油を少し加える程度。家にある食材を入れて作ることはあっても、基本は豆腐、みつば、ネギといった程度。特にネギは自宅の畑で採れたものや、隣組の人が作ったものを使ってました。これが、お雛様の時に作る場合は、色の入ったお麸と三つ葉を入れるんです」

「白魚自体が出汁になってくれるので、家で作る時には他のものは入れません」

水洗いした白魚を塩を入れたお湯でゆがくこと1分弱、透き通った身が白く染まったところで引き上げれば、湯気とともに立ち上る磯の香り。

 

二人が「茹で汁」と呼ぶゆがいたお湯を飲むと、口に広がるのは旨味の大海!魚臭さが全くなく繊細なのに濃厚。

「魚の汁はグツグツと沸騰させちゃダメ。色も濁っちゃうし、ほどほどの火加減で味を出すものです」という台所でのルールが効いてます。

味付けは塩と日本酒、醤油を「色がつく程度に」少しずつ。白魚の身から出た旨さの輪郭がくっきり際立ちます。

「お吸い物は塩で変わります。市販の塩を使えばしっかりした味に、いわきの塩屋埼の塩を使うと柔らかくなります」という話を聞くと、『家ごとの味』があるのはこういった理由なんだろうと。

「熱いうちに触ると身が崩れちゃうので、少し温度を下げて広げて乾かしながら冷ます」という釜揚げの状態で食べると、身の甘みが口に入れて少し経つと一気に膨らみます!

上品で持続性のある甘さが口の中に残るのが、なんとも印象的。「釜揚げは刻んだネギと生姜を乗せて、お醤油を好みの分だけ加えてガーッと混ぜて食べると美味しいんですよ」という食べ方も、いつかは試してみたいものです。

お椀に湯がいた木綿豆腐と白魚、そして三つ葉を盛ったらできあがり。白と緑が映えます。


「豆腐は家によるんですが、木綿の方が味がしっかりしてるのでいいですね。浪江にも昔ながらの作り方を守る美味しい豆腐屋さんがあったんですが、そこのを使うと美味しいんですよね」

魚の汁は、台所で味わう歳時記である

震災前はキロ500010000円になることもあった白魚。「私たちにとっては、白魚はおすそ分けでもらうか、山側の津島(地区)の方にとっては物々交換でもらうもの」というぐらいに、生活の中に欠かせない存在。ということは、他にも『この魚が欠かせない!』というものがあるのでは?

「白魚の時期が終わったら、子女子の味噌汁や卵とじが美味いんですよ!あとはアイナメのあら汁。醤油で味付けるんです」

やっぱり、魚の汁は浪江の食卓に欠かせない存在。季節ごとの美味しさの記憶が人々を繋ぎます。そんな味の拠点となる請戸での漁の再開が、今から待ち遠しくてたまりません。