グルメ

2017-07-03

コーヒーに魅せられた一人の女性の思い

「ニカラグアのコパ、美味しいですよねぇ。私、中深煎りの豆が好きなんです」

仮設商店街まち・なみ・まるしぇの一角に店を構える『カフェコスモス』。浪江町の町花を店名に掲げ、手入れの行き届いたミニガーデンが出迎えるこの店を営むのは高野洋子さん。
もうすぐ70歳とは思えないエネルギーと、素敵な笑顔に出迎えられれば、お客さんも『こんにちは!』と声が出るはず。

浪江町の中心街で生まれ育った洋子さんは、高校卒業後に美容師になる夢を叶えるために上京。都内で念願の仕事をしていた中、ご主人と出会って結婚。その後、37歳で浪江へ帰郷。会社の寮母やゴルフ場の厨房といった様々な仕事を経て、町に『ともみ』という一軒の喫茶店をオープンしました。

「昔から喫茶店が好きだったんです。16歳ぐらいの頃、東京に遊びに行った時に銀座の喫茶店に連れて行ってもらったんです。その時に飲んだ一杯のコーヒーがきっかけで、コーヒーが大好きになって。それ以来、喫茶店のない町じゃ暮らせなくなったぐらいに(笑)、時間があれば色々なお店の飲み歩きをしていました」

自分が好きだったコーヒーの美味しさを、浪江町で多くの方に届けたい。そんな思いで開いたお店でしたが、色々な事情が重なってお店は閉店。再び会社の寮母として働き始めました。

そんな中で発生した東日本大震災。愛する浪江の町を離れ、二本松や猪苗代、いわき市と、仮設住宅を移り住む生活を送らざるをえませんでした。

今だからこそ、町にカフェが必要なんだ

避難生活を送る洋子さんの元に、思いもよらない話が飛び込んできたのは今から1年前のこと。

「復興庁を経由して『仮設商店街でお店を始める方を探している』という話があったんです」

当時、住民の帰還に向けて町役場に隣接する敷地に、仮設商店街を作る計画が進行中。
役場自体が町の中心街エリアに立地していることもあって、まちづくりの拠点に据えようとしていました。

ちょうど洋子さん自身も「お墓参りで浪江に来た人が一息つける場所が欲しい」と考えていた時期。決断のヒントにすべく足を運んだのは、浪江町に隣接する南相馬市の小高地区にできたばかりのカフェ。そこで見たのは、復興に向けて一歩づつ前進する町で生活する、地元の方同志が楽しくおしゃべりをしている姿でした。

「帰還に向けて浪江町にも地元の方同士が楽しくおしゃべりできる環境が必要なんだ。そう強く感じました」

2016年の12月までに仮設商店街を作りたいと構想を持っていた町長に対し、カフェを開くという気持ちを伝えた洋子さん。「私が後にこの町で生業を立ち上げてくれる方の、旗振り役にならないと」という強い信念に基づいて導いた答えでした。

こうして、2016年10月にオープンしたカフェコスモス。以来、洋子さんの生活はこの店を中心に回ることに。いわき市のご自宅から週6回、営業や仕込みのために往復150キロの道のりを、雨の日も風の日も通い続けています。

「最初はコーヒーとパンのメニュー、あとはパスタだけでやろうとしたんです。でも、お店を始めると復興に向けて仕事をされる現場の作業員さんのお客さんが多く、ごはんものがないとご満足いただけなかったんです。なので、最初はカレーを始めて、季節のメニューとしてうどんやオムライスも手掛けて、最終的にはカフェらしいスタイルで色々な食事を提供することにしたんです」

会津のお米を使ったりと福島産食材への思いを持つ一方、もちろんコーヒーにもこだわりを欠かさない洋子さん。一つ穴のペーパードリップや、サイフォンで抽出した本格的な一杯を提供しています。

未来に広がる香りと故郷への思い

昼どきのピークタイム、賑わう店内を包み込むのは、お客さんの笑顔と洋子さんが淹れるコーヒーの香り。憩いの場をオープンして約1年が経過する中、色々なお客さんとの出会いがモチベーションになっています。

「お店には浪江の方も来てくれますが、お仕事で来てくださる方もいらっしゃいます。その中でも、顔見知りの方同士が『久しぶり!しばらく今どうしてるの?』って、お店の中で偶然の出会いがあると特に嬉しいですね」

そんな洋子さんに昔の浪江町の記憶を尋ねると、

「今でもあるのですが、浪江高校の方にコスモス畑があって、昔からこの町は花に恵まれた環境でした。もちろん海あり山あり井戸水があって。請戸川で泳ぐ鮎を取ったりして、おいしいものがたくさんあった。今思うとその環境ってすごかったんだなあと」

全国各地、どの地域でもカフェは人と情報の交差点の役割を果たすもの。幼き日の思い出話に耳を傾けることで、知らなかった浪江町の魅力に触れることができるのも魅力の一つです。

ところで、この仮設商店街では毎月1回、色々なステージイベントが開催されていますが、「フラダンスイベントもいいんじゃない?って思ってるんです、同じ海沿いのものですし。そこで、帰還した住民の方と一緒に身体を動かせるのがいいなって。でも、皆さん恥ずかしがりなんで、誰も一緒に踊ってくれないかも…(笑)」

昔から、浪江町から大熊町のフラダンス教室に通っていた洋子さん。復興に向けて、夢は広がります。

 

カフェコスモス
住所:〒979-1513 福島県双葉郡双葉郡浪江町幾世橋六反田7−2 まち・なみ・まるしぇ内
電話番号:0240-34-1000
営業時間:11:00-15:00
営業日:火・水・土・第一及び第三日曜